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- 第592話名前: JY28
- 「私は夢を持つ。」
彼は家に帰ってきた。
もうすっかり夜である。さすがに秋は日が暮れるのが早いのだろう。
遅めの夕食を食べおえ、そして今日もコンピューターの電源を入れる。
彼のささやかな趣味の作家としての時間は、仕事帰りのこの時間からはじまる。
「さてっ、ハングル板でも行こうかな。『ニホンちゃん』どうなったかな。」
彼は今日もお気に入りの、いつもの所をクリックする。
マウスを動かし終えた時、そこで何か音が聞こえる。
(こん・こん・こん)
ちいさく、そして丁寧なノックの音が聞こえた気がした。
「ん?誰か来たかな?こんな時間なのに。」
だれだろな〜、そう思いながら玄関に足を向ける。
すると薄明かりの玄関、そしてその場所に
ひとりの黒髪の女の子が紙袋をもって立ってた。
「え、きっ君だれ?」
驚き、おもわずたずねた私に、その子は微笑みで答えた。
「えっと、今日は ほんとはカンコ君が来る予定だったんですけど、
カゼひいて寝込んじゃったから 私がかわりに来ました。
おもしろいお話を、いつも これからもありがとう。」
そう言うと、呆然としている私へ、小さなキムチのビンを手渡し、
さっと風のように、出ていってしまったのである。
「君はどこからきたんだ?」
自らの声と共に、我にかえった私は思わずドアを開けた。
だが、そこにはだれの姿も無かった。
ただ秋の夜だけがある。
「待って!僕にもっと君の声をきかせてほしいんだ!」
そして静寂。秋空に返事は帰ってはこなかった。
しかも、たった今もっていたはずのビンも消えなくなっている。
・・・いったい、これは・・・夢だったのか・・・。
あれは秋の夜に見た、つかの間の夢だったというのか・・・。
ちがう!
否!
断じて否だ。
それは、このキムチの香りと私の胸の高揚が「信じることのできるもの」
として存在しているから。
幾百万の感動の言葉を押さえつつ私は感じる。
あの世界は、どこかにきっと実在しているのだということを。
「私の心の中に」などという、使い古された言葉を使うことなしにも。
[すべての作家さんたちへ捧ぐ。]